2012年4月1日日曜日

書評: 日本でいちばん大切にしたい会社

「会社はいったい誰のものだろうか?」

日本では、まだまだ「会社は創業者のもの」という風潮が強い。大王製紙の創業者なんぞは「自分の子供だぞ、好きにして何が悪い」とでもいいたいのだろう。

MBAでは会社は「株主のものである」ということを嫌というほど叩きこまれた。しかし、この考え方も、短期的利益を追求する株主に舵をとっていた会社の多くがリーマンショックで潰れ、大いに雲行きが怪しくなった。

最近では「社員のもの」という声も多く聞かれるようになった。その根底には「社員が幸せでなくして、どうしてお客様を幸せにできようか」という考えがある。

さて、困った。いったい誰のものだろうか。

ここで一歩下がって、自分が経営者だったら自分の会社に何を求めるだろうかということについて考えてみる。

毎年、増収増益する会社?
いい人材が一杯集まってきてくれる会社?
営業をかけずとも向こう(お客様)から来てくれる会社?
社会全体が応援してくれる会社?
売上は増えなくても永続できる会社?

このように経営者として会社に望むことを列挙していってみるとある一つのことに気がつく。そう、結局、社員、取引先、顧客、地域社会、株主・・・そういったステークホルダーみんなが満足感を得られなければ達成できないことばかりなのだ。

誰を第一優先におくかは企業によって違うだろうが、いずれにしても会社は誰のものでもない。最終的には「みんなのもの」なのだ。

思えば、経営雑誌のハーバードビジネスレビューでは、このことをマルチステークホルダーアプローチ(全てのステークホルダーを幸せにすることを軸においたアプローチ)と呼んでいた。また実際にこれを体現して成功した会社もある。「みんなから尊敬される会社になること」を掲げ、この信念を貫いてきたIT開発会社、インフォシスである。

しかし現実には、経営者のほとんどは明日のキャッシュを獲得することに忙殺されて、こうした当たり前のことを実現できてはいないのではなかろうか。私も会社を経営する立場だが、全く偉そうなことを言えた立場ではない。

ただそうではない会社もたくさんある。6,000社を優に超える企業を直に訪問し、自らの目で確かめてきた男が、厳選に厳選を重ね、現実にマルチステークホルダーアプローチを体現できている会社5社を紹介しているのがこの本だ。

日本でいちばん大切にしたい会社
著者: 坂本光司
発行元: あさ出版

社員の7割が障害者の会社、48年間増収増益を続ける会社、さびれた商店街で右肩上がりの成長を続ける会社などが紹介されている。

世の中には「経営戦略」や「マーケティング」、「営業」を強化するためのノウハウ本がゴマンと出ているが、それらはあくまでも売上をアップ(あるいはコストカット)させるための手段に過ぎない。それよりももっと前に、会社が取り組むべき重要な本質が本書には描かれている。

著者は語る。日本で一番大切にしたい会社は「継続できる会社」である、と。会社経営で成功している人は奢らないようにするために、苦しんでいる人は成功の光を見出すために、読んでおきたい本の1冊である。





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