2013年7月7日日曜日

書評: 中学受験に失敗しない

中学受験に失敗しない
著者: 高濱正伸
発行元: PHP新書

■中学受験の指南書

子を持つ親が中学受験をどう捉えるべきか、どういう親子が中学受験を活用すべきか、どのように活用すべきか、活用しない場合は何に気をつけるべきか・・・といった誰もが持つ疑問に丁寧に答えてくれている中学受験の指南書である。

本書は、実際に中学受験を目指す子供達に学ぶ場を提供する塾の経営者でもあり、先生でもある高濱正伸氏によって書かれている。知る人ぞ知る、花まる学習会の塾長だ。この塾は、その独特な教育法で、「子供のやる気を育てる」「なぜか勉強が好きになる」とクチコミで評判となり、中居正広の金曜日のスマたちへで、とりあげられたことがある。将来「メシを食える人」「魅力的な大人」を育てる・・・というユニークなコンセプトを掲げていることでも有名だ。

■現場を知っている人ならではの解説書

本書の特徴は何だろうか。他の類書と比べて述べてみたい。

中学受験に関する本・・・といえば類書は山のようにあるが、以前、おおたとしまさ著の「中学受験という選択」という本を読んだことがある。まず共通点だが、両著者とも、中学受験に対してはニュートラルという点で一緒だと思う。特に、高濱氏は、自身が高校受験者で成功を収めてきた人であるということからも、決して中学受験信奉者ではないということが分かる。

次に違いだが、おおたとしまさ氏の本が、育児・教育ジャーナリストという立場で書かれた本であるのに対し、本書「中学受験に失敗しない」は、実際に現場で指揮をふるう先生によって書かれた本である・・・という違いがある。だからなのだろう。本書では、父親・母親との接点を多く持つ現場経験者ならではの解説が目立つ。中学受験を考える父親・母親の精神状態を、お釈迦様が孫悟空を手のひらで転がしているかのように、手に取るように把握している印象だ。当然、説得力がある。実際、わたしも二児の父親だが、普段のわたしの悪いところをしっかりと言い当てられた。また、触れるポイントが良い意味で細かい。「リビングには国語辞典をおいておいたほうがいい」とか、「夫を違う動物(犬)だと思って接した方がいい」とか、指導内容が具体的で、実践的?だ(笑)。

■”子供のために”というブレない軸

読んでいると、頻繁に、花まる学習会(もしくは同系列のスクールFC)という塾名が登場する。こうした事例が多いので、よもや塾の宣伝書か?などと一瞬勘ぐってしまいたくなる。だが、1人で食っていける子を育てる・・・という経営理念を掲げる塾を経営している人だけのことはある。読み進めると、”子供ために”というブレない軸がはっきりしているので、(仮にビジネスをみすえた本であるにしても)抵抗なく読み進めることができた。

「中学・高校時代は、失敗も成功もひっくるめて、子供は多くのことを経験すべき時期です。
(本書 「面倒見がいい」私立校の落とし穴より)

受験という目標がなくても、むしろないからこそ、子供はエンジンがかかると楽しみながら勉強ができます。
(本書 中学受験をしない小学校時代の勉強法より)

我が子に必要以上の背伸びを強いる受験はおすすめできません。大切なのは、中学受験そのものより、人生そのものであるはずです。そこを親の目先の欲で狂わせてはいけません。
(本書 より御三家で下位によりも、二番手で上位校に、より)

■子を持つ親なら読んでおいて損はないかも

本書を読むと、少なくとも次のことが腹におちる。
  • 中学受験は人生のゴールでなく子供を成長させる手段の1つ
  • だから、中学受験を受ける受けさせないは子や親の適正を見て判断をすべきだし、たとえ中学受験に落ちてもそれは失敗でもなんでもなく、それもまた成長の糧と捉えるべき
ひとたび、このような考えたが腹におちると、本書は実は中学受験の指南書というよりも、むしろ、遠くを見据えた”子育ての指南書”という表現がぴったりと当てはまるような気がする。ゆえに、中学受験を気にする気にしないに関係なく、子を持つ親は読んでおいて決して損はないと思う。


【類書】
 ・中学受験という選択(おおたとしまさ著)
 ・子供の頭を良くする勉強法(伊藤真)

0 件のコメント:

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...