2013年8月25日日曜日

書評: 日本人が「世界で戦う」ために必要な話し方

突然だが、わたしが外国系企業で働いていたときの一場面を述べたい。

日本人の部長が日本人の部下を、大声で叱っていた。怒りが収まらなかったのか、果ては机の上にあったティッシュペーパーをまるめて投げつけていた。その光景は他の従業員からもガラス越しに見てとれた。それを見ていた1人の外国人従業員は次の日に退職届を出してきた。自分もパワハラを受けたのと同然、こんな企業で働きたくない、という理由だ。

これは日本人がグローバル企業で働く際に起きるトラブルのほんの一例に過ぎない。そして、こんな事態に陥らないための虎の巻がここにあるレビュープラス様から献本いただきました)

日本人が「世界で戦う」ために必要な話し方
著者: 北山 公一
発行元: 日本実業者出版


■グローバル企業で働く上での処世術


『口べたで日系出身企業の私が、15年間のグローバル企業勤務で必死になって身につけた、人を動かす「主張」の技術』・・・帯にはこうある。本書を表すのにこれ以上的確な表現はない。200ページ弱からなるこの本には、グローバル企業での処世術が書かれている。なお、グローバル企業という言葉はやや曖昧なので補足しておくと、より正確には、外国人が多く働く環境・・・すなわち、外資系、外国系、あるいは外国に進出した日本企業の支店や子会社といった方がいいだろう。

そんな本書の中身だが、具体的にはたとえば、「結論ファーストを徹底する」という項がある。ここには、グローバル企業で働くなら、「”結論を先に行ってから理由づけをする”癖を身につけるべし」とのアドバイスが書かれている。また、「上司の指示を疑い、積極的に意見せよ」の項。ここには、「グローバル企業の上司は、部下からの意見があることを当然のことと考えているゆえ、積極的な意見を述べることが重要視される」ことなどが書かれている。

■誰もが100%経験することが書かれている


本書の特徴は、2つだ。1つは、非常に易しく読みやすい本であるという点。文中、グローバル企業に多いというマトリックス組織図の解説が入るが、難しいと言ってもせいぜいこの程度で、何の前知識がなくても読める。事実、わたしは1時間で読み終えてしまった。

そして特徴の2点目。グローバル企業で働く日本人なら、絶対に誰もが経験することばかりがカバーされている、という点だろう。私自身、外資系・外国系企業で働いたことがあるが、この本に書かれていることは全て経験している。冒頭で挙げたわたしのパワハラ経験が、まさにその証拠だ。本書にも同様に「”日本流”で叱るとパワハラ扱いされることも」という項で似たようなことが述べられている。

ただし、こうした特徴は本書の魅力であると同時に興味を失わせる理由にもなっている。どういう意味かというと、外国人が働く環境に勤めるのが初めての人には、まずもってこの本に書かれていることを間違いなく経験するわけだから、「どんな心構えで臨めばいいかを学べる」という点で本書は魅力的なのだ。一方で、そういう環境で少しでも働いたことがある人なら、(わたしのように)既に経験したことばかりが書かれているという点で、本書の意議は低いと評せざるを得ない。

■グローバル企業に初めて勤める人に


しかるに結論だが、グローバル企業(≒外国人が働く環境)で働いた経験がある人には本書は新鮮味がないだろう。本書を手にとるべき人は、グローバル企業で働くことに強い関心がある人、これから勤める予定がある人・・・たとえばグローバル企業に就職が決まった学生諸君や、グローバル企業の子会社社長として出向が決まった人など・・・であれば、参考になるだろう。きっと、冒頭に挙げたわたしの事例に登場する上司も、この本を事前に読んでいたら、従業員の1人がやめてしまう・・・という失敗を犯さずにすんだのかもしれない。


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