2015年2月3日火曜日

書評: 大前研一 日本の論点 2015-2016

久しぶりに手を出した大前研一氏の本。彼の本は、当然ながら整理されて頭に入って来やすいので、読んでいて気持ちがいい。ストレスフリーで読めて、それでいて、思考力と知識がつくというありがたい本だ。





本書は、月刊誌プレジデントへの同氏の寄稿記事やストックしてきたネタに加筆修正を行ったものだ。タイトルにあるように日本が抱える論点について言及している。では、論点とはなんだろうか。

論点とは、「問題を解決するために、みなが最も集中して時間を注ぐべき事項のこと」だ。我々には何かについて何時間も真剣に議論していても、実は時間をかけるのはそこじゃない!ということがよくある。たとえば「どうやってこの難題を解こう」と何時間も悩み続けてるテーマがあったとする。何時間も考えて解が出ないなら、論点は「どうやって"自分が"この難題を解くか?」ではなく、「どうやって、解ける人を捕まえてくるか」とすべきなのだ。

頭のいい大前研一氏から見たら、「日本の政治家や経営陣の多くが、論点ではないところに時間を割いている」とイライラする場面が多いのだろう。「我々の思考時間の使い方のどこに無駄があるのかを指摘してくれているのが本書とも言える。

さて、具体的にはどんな論点を取り上げているのだろうか。ビジネスよりの話では、アマゾンの一人勝ちの話に始まり、ソニーの一人負け、もがき苦しむ日産自動車などを取り上げている。また、社会的な話では、エネルギー政策や企業の給与体系のあり方、韓国や中国との付き合い方などを取り上げている。

どのような語り口調で大前氏が論点を述べているか一例を挙げてみよう。以下は、ソニーの一人負けの章からの抜粋だ。

『ソニーのような大きな会社が躓く理由の一つは、過去の成功体験に引きずられるからだ。事業を作り出したことのない平井社長のような経営者は過去の延長線上で、足し算と引き算で考えることしかできない…(中略)…会社の中でデジタルの本質が何なのか、徹底的に議論する。その脅威を組織で理解し、共有する。そして勝者の側に立っている企業が何をやっているのか、徹底的に研究する。トップ自らがそれを毎日にように行わなければ、組織は危機感やビジョンを共有できないし、新しい発想も生まれてこない』

なかなか手厳しい。

実は本書を読むメリットは、こうして大きなテーマの論点を知ることだけではない。それに加え、もう一歩踏み込んで、見方を変えて読めば「思考術」の勉強にもなる。

先のソニーの事例で言えば、「勝者に学ぼう」という考え方・・・これは思考の起点として王道だ。一方で、何かを生みだそうとしているのなら、さらに、自分たちが提供している製品やサービスの付加価値・・・の本質を徹底的に見極めようという考え方・・・も、そうだ。何かを生みだそうとしても、ゴールに向かって敷かれた道ばかり(例:他社がどうやっているか、今何が売れそうか)見ていてはダメで、ゴールそのものをもっと徹底的に理解し、とらえ直す。そうすればそのゴールに到達するための別の道のりが見えてくる・・・「デジタル化とは何かを徹底的に議論する」との言があったが、そういうことじゃないだろうか。

ビジネスマン必見の書だ。


【日本の論点シリーズ】

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